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    逮捕

    出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

    逮捕(たいほ)とは、捜査機関又は私人が、被疑者の逃亡及び罪証隠滅を防止するため、強制的に身柄を拘束する処分をいう。

    目次

    [編集] 逮捕の種類

    現行法上、逮捕には次の3種類がある。

    1. 通常逮捕
    2. 緊急逮捕
    3. 現行犯逮捕

    [編集] 通常逮捕

    通常逮捕とは、事前に裁判官から発付された逮捕状に基づいて、被疑者を逮捕することである(憲法33条刑訴法199条1項。)。これが逮捕の原則的な形態となる。

    逮捕状の請求権者は、検察官又は司法警察員[1]である(刑訴法199条2項)。逮捕状の請求があったときは、裁判官が逮捕の理由(「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」。嫌疑の相当性。)と逮捕の必要を審査して、逮捕状を発付する(同条、刑事訴訟規則143条。)。ただし、法定刑の軽微な事件[2]については、被疑者が住居不定の場合又は正当な理由がなく任意出頭の求めに応じない場合に限る(刑訴法199条1項)。裁判官は、必要であれば、逮捕状の請求をした者の出頭を求めてその陳述を聴き、又はその者に対し書類その他の物の提示を求めることができる(刑訴規143条の2)。

    逮捕状により被疑者を逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない(刑訴法201条1項)。逮捕状を所持しないためこれを示すことができない場合において、急速を要するときは、被疑者に対し公訴事実の要旨及び令状が発せられている旨を告げて、その執行をすることができる(同条2項・73条3項。緊急執行。)。ただし、令状は、できる限り速やかにこれを示さなければならない(同条2項・73条3項但し書き)。

    明文規定はないものの、逮捕に際しては、社会通念上逮捕のために必要かつ相当と認められる限度で実力行使が認められると解されている(判例[3])。反抗を制圧し、手錠をかけ、腰縄をつけることなどがこれにあたる。このように、実力行使は警察比例の原則に基づいて認められるため、逮捕されたからといって必ずしも手錠がかけられるわけではない。

    [編集] 緊急逮捕

    詳細は緊急逮捕を参照

    検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる(刑訴法210条)。これを緊急逮捕という。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならず、逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

    この緊急逮捕については、他の通常逮捕や現行犯逮捕と異なり憲法に規定がないため、その憲法適合性が問題となった。判例では「憲法33条の規定の趣旨に反するものではない」として合憲とされた[4]

    [編集] 現行犯逮捕

    詳細は現行犯を参照

    現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人といい(刑訴法212条1項)、現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる(同213条)。これを現行犯逮捕という(憲法33条、刑訴法212条1項)。英米法における私人逮捕(一般私人によっても許される逮捕行為。英:civil arrest)と同様。現行犯逮捕は、誤認逮捕のおそれが極めて低いため、「何人」(なんぴと)でも行える。これは、捜査機関であると私人であるとを問わず、非番、休暇、または管轄区域外にある公務外の警察官も、現行犯逮捕は当然執行できる。

    また、次の要件にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす(刑訴法212条2項。準現行犯人。)。準現行犯人についても、現行犯逮捕できる。

    1. 犯人として追呼されているとき。
    2. 贓物(ぞうぶつ。盗品等。)又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
    3. 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
    4. 誰何(すいか)されて逃走しようとするとき。

    私人など、検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者が現行犯人・準現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない(刑訴法214条)。

    [編集] 逮捕と人権

    [編集] 無罪推定の原則

    逮捕された被疑者は、国際人権規約人権」を参照のこと)の一部を成す「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第14条2項にもあるように、刑事上の事実認定や法上の取り扱いにおいて無罪を推定されている立場である(詳しくは、「推定無罪」を参照のこと)。

    [編集] 逮捕と大衆意識

    法律上は、警察は「犯罪を犯した疑いがあると警察が感じる」者であれば確実な証拠がなくても(逮捕状を裁判官に発付してもらいさえすれば)ほぼ自由に逮捕することができるため、逮捕=犯人ではない。しかし、日本人の大衆意識としては、逮捕は有罪判決と同然、すなわち「逮捕(すること)=有罪(にすること)」が一般的であるとされ、容疑者が身柄を確保されることはしばしば「犯人逮捕」と呼称され、「逮捕された時点で既に有罪が確定」したも同然として認識されているということができ、以下の理由から日本におけるこのイメージが根強く残っている。

    • 相当程度確実な証拠が得られなければ逮捕しないことが多いこと、現実に逮捕・起訴された場合の有罪率(起訴有罪率)の高さ(別件逮捕」「精密司法」「無罪」も参照のこと)。実際に検察は、間違いなく公判維持・有罪に出来る事件以外は送致を受けても起訴便宜主義により不起訴起訴猶予処分で済ませる。
    • 裁判所が警察・検察から逮捕状捜査令状の請求を受けた場合、その請求を却下するのはわずか1%未満でしかなく、99%以上で間違いなく請求が受け入れられる。
    • 被疑者が心神喪失など精神面での障害がない成人であれば、ほぼ確実に実名報道される。後日冤罪などで無罪が確定したとしても、実名報道したメディアには謝罪する義務が一切課せられていない。
    • 被疑者としての氏名が世間に知られた以上、大きな社会的制裁を受けたのに等しく、中堅以上の企業へ就職することがほぼ不可能になり、事実上職業選択の自由が剥奪されてしまう場合もある(ホワイトカラーへの就職はまず不可能であり、ブルーカラーへの就職すら困難になることもある。この価値観自体が名誉毀損という刑法解釈上外部的名誉の毀損にあたるし、名誉感情そのものをあまりにもストレートに侵害しているわけで侮辱罪に該当する可能性もある)。
    • マスメディアによる犯人視報道(メディアパニッシュメント)
      • 刑事裁判においては、裁判官に予断を抱かせるような証拠を提出すること自体が制限されているが(例:伝聞証拠の禁止)、メディアにおいてはそのような制約がないため、法廷では証拠能力が認められないような情報源に基いたものも含んだ被疑者・被告人の犯人視報道が野放しとなっている[5]。近年はインターネットのブログ匿名掲示板において同種の現象が見られ、それが「ネット―」と呼ばれたりしている[要出典]
    • 犯罪を取り上げた映画テレビドラマ小説の影響(あらかじめ犯人が設定されていないと物語が成り立たない。また、特に刑事ドラマでは「犯人を逮捕した時点」で事件解決との筋立てとなっており、さらに「逮捕した瞬間で時効が停止」するという誤った認識で書かれることもあり、検察の送致、裁判を省略しているため、誤解を生じやすい)。
    • 警察官検察官裁判官の役割分担が、大衆意識のレベルで未分化である[6]

    [編集] 逮捕の基準

    逮捕の手段として最も一般的である通常逮捕は、裁判官の発付する令状(逮捕状)によってのみ執行することができる。いずれの逮捕も拘束時間は原則として警察で48時間・検察で24時間の最大72時間(検察官による逮捕の場合は48時間)である。

    その後、必要に応じて上記時間内に勾留請求がなされ、裁判所がこれを認めればさらに10日間(延長されれば20日間)の勾留がなされる(マスコミ用語では「拘置」と呼ばれる)。

    逮捕は逃亡および罪証隠滅の恐れがある場合に行われるので、逆に言えばそれらの恐れがなければ本来は被疑者を逮捕する必要は無い。その場合は任意調べの後に、訴追相当と考えられれば関係書類をまとめて検察庁に送り、移管する。これをマスコミ用語で書類送検と呼ぶ(訴訟手続上、実務上は身柄の有無にかかわらず検察官送致という)。

    殺人罪傷害致死罪といった人命に関わる犯罪の場合や、強盗覚せい剤取締法違反、また強姦強制わいせつ罪のような性犯罪はほぼ逮捕され、自動車を運転して事故を起こした場合(危険運転致死傷罪自動車運転過失致死傷道路交通法違反など)も逮捕されることが多い。

    [編集] 逮捕の目的

    法上の目的は、罪証隠滅の恐れ、もしくは逃亡のおそれがある場合における被疑者の身柄の確保にあるが、捜査員の主観においては被疑者の取調べが主な目的であり、また、マスメディアで取り上げられるような著名な事件では、見せしめを狙った逮捕や、権力に逆らう人物を弾圧目的で逮捕する例も見られるといわれる。

    [編集] 再逮捕

    [編集] 再逮捕の定義

    再逮捕(さいたいほ)とは、既に逮捕されている者を釈放した直後に、または釈放することなく引き続き勾留した状態で再度逮捕することである。具体的な手続きは逮捕状を示し、再逮捕する旨の告知で終わる。再逮捕の被疑事実は、前の逮捕の被疑事実と異なる場合と同一の場合とがある。

    [編集] 異なる被疑事実での再逮捕

    マスコミ報道などでよく耳目にするのは、異なる被疑事実での再逮捕である。見出しでは単に「再逮捕」となっていても、本文では例えば「死体遺棄容疑で身柄拘束中の被疑者殺人容疑で再逮捕した」などと記されている。このような再逮捕は疑いなく合法であり、後述のようにマスコミによる法律用語の誤用とする指摘もある。

    [編集] 同一の被疑事実での再逮捕

    同一の被疑事実での再逮捕は「一罪一逮捕一勾留の原則」との関係で問題があるため、法律学においてはもっぱらこちらのケースの「再逮捕」が論議の対象となっている。そのため、法律学において単に「再逮捕」と言った場合は、この同一の被疑事実による再逮捕のみを意味することが多い。

    逮捕には身柄拘束期間の上限が規定されているが、もしも同一の被疑事実での再逮捕を許したのならば、捜査機関は逮捕を繰り返すことで好きなだけ身柄拘束期間を延ばすことが可能となってしまい、この上限規定を無意味なものにしてしまう。そこで、同一の犯罪事実については、逮捕は1回しか許されないというのが、刑事訴訟における原則となっている(一罪一逮捕の原則)。

    ここで問題となるのは、同一の被疑事実か否かの判定方法である。また、釈放後に重大な新証拠の発見があった場合や逮捕後に被疑者が逃亡したような場合にも二度と逮捕できないとするのは不合理であるため、一罪一逮捕の原則の例外が認められる条件が講学上、問題となる。

    [編集] マスコミ用語と法律用語

    マスコミが法律用語を誤用したり、あらたに法律用語のような言葉を作り出すのはよくあることで、この様な例としては、「更改」「容疑者」「被告」などが挙げられている。「再逮捕」についてもこのような例として挙げられることがあるが、マスコミだけでなく法実務の現場においても両方のケースが「再逮捕」と呼ばれているという指摘もある。

    [編集] 脚注

    [ヘルプ]
    1. ^ 警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。
    2. ^ 30万円(刑法暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、2万円)以下の罰金拘留又は科料に当たる罪に関する被疑事件。
    3. ^ 最判昭和50年4月3日刑集29巻4号132頁。
    4. ^ 最大判昭和30年12月14日刑集9巻13号2760頁PDF参照。
    5. ^ そのため、後日に被疑者・被告人による名誉毀損損害賠償請求が認められるケースもある。
    6. ^ 江戸時代においては、警察署検察庁裁判所は、例えば江戸においては江戸町奉行というように一体化していた。そのイメージが時代劇などを通じて現在の大衆意識にも影響を及ぼしている

    [編集] 関連項目

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